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地球のかけら

【第80回】雲母

2011年10月 1日

例えば山の中で水晶を探すとき、何を目印に水晶を見つけるかというと、
それは結晶面が反射する光なのだ。


日の光が上手い具合に当たるとそこがキラッと光り、水晶が自分の存在を主張してくれる。
もちろん、結晶はあちこちを向いているから、顔を横にスーッと動かしてみると、
その動きにあわせ斜面がキラキラキラッと輝く。

だから、雨上がりの晴れた日はサイコー。


昼間であるにもかかわらず、それはまるで星空の上に立っているような錯覚を覚えてしまう。

ところが、キラッと光ったそこへ駆け寄って探してみても、
水晶がいっこうに見つからないときがある。

あれっ? と思い元の場所に戻って再度確認すると、ちゃんと光っている。
でも、探すとない。

実はこんなときの方が多かったりするのだけれど、
水晶がないかわりに何がいるのかというと、そこには往々にして雲母がいたりする。


はい。今回のテーマは雲母(うんも:マイカ)です。


雲母は私たち鉱物採集家にとって、どちらかというとガッカリされてしまう鉱物。
世界中どこにでもあって、しかもたくさんあって、ペラペラで光をおもいっきり反射して
目的の鉱物を私たちの目から隠してしまう。

「なんだ、雲母かよ」っていうのが、ついつい出てしまう私たちの言葉。
 
とはいえ雲母が大好きで、たくさん集めている人もいる。
そういう人は語るよ。もう、語る語る。
例えば、「雲母は奥が深いよ。種類だって50種類以上もあって○△□……」。
その先は憶えていないんだけどね。



でも、身近であることは事実で、幼い頃に初めて接した鉱物が
雲母だったって人も多いんじゃないかな。
私も子供の頃、雲母で遊んだ憶えがあるし、ウチのカミさんもそう。

なんでも、家の裏に雲母を扱う工場があったそうで、その工場の裏庭に
落ちていた雲母をペリペリ剥がして遊んだそうだ。

さて、ちょっとここで雲母の特徴と性質について。

雲母の単結晶を正面から見ると、基本的には正六角形をしている。
基本色は無色透明。
種類によって白っぽかったり、金色っぽかったり、黒っぽかったりしている。
その違いで白雲母、金雲母、黒雲母などと呼ばれている。

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※画像はウィキペディアより

石好きにとってもっともメジャーな雲母はレピドライト(リチア雲母)かな。
これはピンクでカワイイよね。


それから、日本で発見された益富雲母(ますとみうんも)というのもあって、
これは紫がかっていてキレイ。
この益富雲母はかなりレアだから、ちょっと欲しいなって思っている。


話は戻って結晶の形。
正面から見ると正六角形なのは鉱物としてはよくある形なのだけれど、問題はその厚さ。
なんと、分子が一列に並んで結晶になったら、その一列分しか厚さがない。
分子ひとつの大きさが結晶の厚さ。


えっと、0.000000001メートルくらいかな。
よくわかんないんだけど、1ミリの1000分の1の、1000分の1。
ま、とにかく正面からは見えるけど、薄すぎて横からはまったく見えないよね。

だいたい1センチの厚さの雲母があれば、そこには約1000万枚の
雲母が重なっていることになる。
そしてその重なりは簡単に剥がすことが出来る。
それはもう簡単にペリペリと。

だから雲母には「千枚剥がし」という別名もあるんだけれど、
この場合の千枚とは具体的に1000枚という意味ではなくて、
「そりゃもう死ぬほどたくさん」という意味だと思う。

そのくらい薄い雲母は石であるにもかかわらず、
ある程度の厚みがあってもグニャグニャ曲がる。
グニャグニャ曲がって簡単に剥がれるんだけれど、
その逆方向、結晶を縦に裂こうとしたらこれはもう極めて強い力がいる。

80_mica06wiki.jpg
※画像はウィキペディアより

先端についている結晶はアパタイト。
スジのたくさん入っている鉱物が雲母。
このスジに沿ってならば簡単に裂けるけれど、それ以外の方向で
裂こうとするのはほぼ不可能。

いやーホント、雲母って不思議な鉱物だ。石であるにもかかわらず、
割るという概念が当てはまらない。


そうそう、カミさんが工場の裏庭に落ちていた雲母で遊んでいたという話は
前述したのだけれど、その工場では雲母を何に使っていたのだろうか。


もちろんカミさんが憶えているわけもないし、その工場も今はないから知るすべもない。
しかし、ここで重要なことは雲母は工業的に使われているということだ。

ここで雲母の性質なのだけれど、まず雲母には非常に強い耐熱性がある。
中学校や高校のときに教室で石油ストーブを使っていた人はいるかな。
最近はエアコンが多いから知らない人も多いと思うけど、
お腹くらいまでの高さがあって円筒形で煙突のあるあれ。


あのストーブって、火をつけると炎の見える窓がついているでしょ。 

あの窓が雲母なのですよ。

けっしてガラスではない。もしガラスだったら簡単に溶けている。
雲母でなければあの熱に耐えることが出来ないのだ。

それから、電気を通さない性質もあり絶縁体としても使われている。
とくに電気をためるコンデンサというものには絶対に必要なものらしい。
コンデンサといえば電化製品になくてはならない必需品。
私たちの快適な生活に雲母は欠かせないということだね。
 
さらに自動車の塗料にも使われているし、お化粧品にも使われている。
ファンデーションのキラキラしているところなんかが雲母だからね。
 

雲母って本当に私たちの生活の奥深くに入り込んでいるということがよくわかる。
きっと、まだまだ私の知らないところで雲母は重要な役割を果たしているに違いない。

ところが、そのような役割を果たしていたのは工業製品だけではなかった。
日本の文化伝統にも大きな役割を果たしていた。



大和言葉で「きらら」もしくは「きら」という雲母だけれど、
ほら、忠臣蔵で有名な吉良上野介(きらこうずけのすけ)の姓は「吉良(きら)」なんですよ。

なぜ吉良なのかというと、吉良氏は古くから大きな雲母鉱山を所有していたことから
来ているそうで、雲母(きら)という音に縁起の良い字を当てて吉良にしたと記録に残っている。

そして吉良氏の所有する鉱山から産出した雲母は茶道・華道と並ぶ
もうひとつの芸道である香道(こうどう)で使われていた。

香道なんて平安貴族のたしなみのようなことにはまったく縁がないのでwikiで調べてみた。

香道とは、香りを楽しみ、日常を離れた集中と静寂の世界に遊ぶことを
目的とした芸道で、一定の作法のもとに香木を?(た)き、
立ち上る香りを鑑賞するものである
。」
のだそうだ。

80_wakamurasaki.jpg
平安と紫といえば、もうこの絵しかないでしょう。

香炉で香木を?くとき、灰の中に炭を入れさらに灰をかぶせ、
その上に小さく切った香木をのせるのだけれど、直接のせてしまったのでは
香木が燃えてしまい煙の臭いしかしなくなる。
香木を燃やさずに熱を加えなければ香りを聞くことはできない。

そこで熱に強い雲母が必要になる。
雲母の結晶を小さく板状に切り、灰をかぶせた炭の上に置く。
その上に香木をのせ香りを発散させる。

この雲母の板は銀葉(ぎんよう)と呼ばれ、もちろん現在の香道でも使われている。


んー、雲母って鉱物として語るより文化として語る方がその存在が際立つなあ。
もしかすると、これまで雲母が鉱物だと知らなかった人もいるかもしれない。
また、鉱物であることは知っていたけれど、こんなに私たちの生活に
関わっているとは思わなかったという人も。

カワイイとかキレイだとかを基準に見ている鉱物も、雲母の存在を
知ることによってその見方が変わってきたりしてくれたなら、私としてはちょっと嬉しいな。 

 

 

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