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地球のかけら

【第90回】トラピチェ

2013年2月 1日

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※画像はウィキペディアより

人類滅亡とかベルトがどうのとかを予定どおり通過いたしまして、2013年も早2月。
皆様いかがお過ごしですか?

今年はそんな激しいイベントとかはなかったと思いますので、
一年、落ち着いてすごせたらいいなと思っております。


それではそんな2013年最初に紹介する石は、
「以前には希少すぎてコレクターズアイテムの域を出られなかった石が、
ついに多くの人に知られるようになった」っていう石。

そういう石といえば、私はトラピチェ・エメラルドが正しくそれなんじゃないかと思うんです。

トラピチェ・エメラルド。

それは150年ほど前にコロンビアのムゾー鉱山で発見された、ちょっと変わったエメラルド。
ムゾー鉱山といえば鉱山のその名前がブランドになってしまうほど、
現在でも世界でもっとも美しいエメラルドを産出している鉱山。
そこから、ごくたまーに出てくる。
最近はマダガスカルとか他の国からも見つかっているけれど、ムゾー鉱山産にはかなわない。

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※画像はウィキペディアより

写真のとおり結晶の中心から放射状に伸びている6本の黒い線が特徴。
ていうか、この黒い線こそがトラピチェのトラピチェたるゆえん。

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※画像はウィキペディアより

これは「サトウキビ絞り機」の絵。
この機械をトラピチェまたはトラピッチというらしい。
見てのとおり、この機械を動かすための歯車というか動力部分にその模様が
似ていたからということでトラピチェという名前になったそうだ。
もちろん現在はこんなふうには動かしていないと思うけど。

ところで、トラピチェって、当時は鉱物の専門店やミネラルショーに行かないと
絶対にお目にかかることができなかった。
それに今でもそうだけれど、1センチに満たないくらいの結晶が何万円もする。

私としてもショーで見かけるたびに欲しくなっていたんだけれど、
「それを買ったら、もう他に何も買えなくなる」
って思うとどうしても手が出せない。手が出ないまま現在に至っております。

それが、ここ最近になって宝石店とかで指輪やペンダントになって売られているのを
見かけるようになってきた。

トラピチェという名前もけっこうメジャーになってきているようで、
「おう、なかなかやるようになったな(何を?)」とは思っているんだけど、でも値段がねぇ。

指輪とかになるとプラチナとかダイヤモンドとかを使っちゃうから、
ルースの値段プラス10万20万は当たり前なわけで……。

けっきょく手を出せないままでいるうちにすっかりメジャーになっちゃって、
これじゃあ「こんなの知ってる?」なんて自慢もできないよ、ちぇっ。 って感じです。


閑話休題

トラピチェの最大の問題はというと、「なぜこんな模様ができるのか」ということにつきる。
ちなみにこの黒い模様がなにでできているのかというと、曹長石(そうちょうせき:アルバイト)と
ベリル(緑柱石:りょくちゅうせき)の目に見えない極微細な結晶の混合物。
 

緑に発色したベリルの宝石名がエメラルドなんだから、ベリルの極微細な結晶はまあいいとして、
曹長石というのは単なる不純物(インクルージョン)でしかない。
その不純物がなぜ規則正しくあのような幾何学模様になるんだろう。


実は、これが2013年の現在でもよくわかっていない。


専門家がおこなったX線解析でようやくわかったことといえば、その結晶が2種類の
結晶系でできているということ。

結晶系というのは、四角くなったり丸くなったり六角形になったりする結晶を分類わけしたもの。
全部で7種類あって、すべての鉱物は必ずそのいずれかに分類される。


すべての鉱物は必ずそのいずれかに分類される(大切なことなので二度いいました)

結晶が六角柱になるベリルは六方晶系(ろっぽうしょうけい)に分類されている。
当然、エメラルドも六方晶系。
ところがトラピチェの中には三斜晶系(さんしゃしょうけい)が混在しているんだそう。

なぜそうなるのかはまったくわかっていない。   
鉱物七不思議のひとつなのである(七つあるかどうかわからないけど)。


さて、トラピチェといえばエメラルドなのだけれど、トラピチェとはあくまでも模様のこと。
最近はエメラルド以外のトラピチェも見つかっている。
やはり同じ六方晶系の石がトラピチェになっている。


その代表的なものが、トラピチェ・サファイアとトラピチェ・ルビー。

サファイアとルビーはコランダムの色違いだから、サファイアがあるのならルビーがあって
当然なんだけれど、サファイアとルビーなんだよね。
こりゃまた高価な石がトラピチェになったもので……。
私はまだ写真でしか見たことがないのだけれど、トラピチェ・エメラルドの緑の部分が
そっくり赤や青に置き換わっているところを想像してもらえたらいいかな。

そこでですね、ちょっとこの写真を見てください。

90_tra-saf6.jpg

○で囲ってあるところ。

直径約1センチ。
これ、何年か前に富山県で採集したサファイア。
コランダムの赤以外をサファイアと呼ぶんで、あえてサファイアっていっちゃいますけど、どうですか?
中心から放射状に6本の黒い線が入っているでしょう。

拡大するとこんな感じ。ちょっとわかりにくいけど。

90_tra-saf4.jpg

こ、これって、トラピチェっぽくないですかね。
もしそうなら、自分で採集したトラピチェ・サファイアを持っているってことで、
すんごく自慢できるんですけど、どうですか? ちょっと強引ですか?


それでは最後に、ショップでトラピチェ・エメラルドを探すときは単なるエメラルドの中からも探してみて。
店員さんに気づかれなかったトラピチェが混じっていることがあるかもね。
そしたらラッキー。

それじゃ、また。

 

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