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地球のかけら

【第86回」 

2012年6月 1日

いやー、気づかなかった気づかなかった。
こんな重要な石をちゃんと紹介していなかったなんて。

第21回でも少しは紹介していたのだけれど、
それは「,(カンマ)」の形をした勾玉(まがたま)を紹介したときに、
ついでのような形で紹介しただけだった。

きっと、それをもって紹介したつもりになっていたんだろうな。
ホント私としたことが、だよ。

さ、その石とは。
そう、まったくもって意外なことに、なんとヒスイだったのですよ。

86_je1.jpg

ヒスイって、私にとってはすごく身近な石。
なにせ、8年間も住んでいた富山県から新潟県にかけての海岸に
ヒスイが打ち上がるのだから。
私もカミさんと一緒に何度ヒスイ探しに出かけたことか。

そこで、あらためて今回こそヒスイをちゃんと掘り下げてみようじゃないかと
思った次第なのであります。


それで、そのヒスイなのだけれど、過去には大きく分けて2種類の石が
ヒスイ(ジェード)と呼ばれて混同されてきた。

◎ ひとつはジェダイト。日本名:硬玉(こうぎょく)。
これがヒスイ輝石で出来ている本当のヒスイ。
「本当の」というと何かもうひとつがヒスイの偽物という感じがして適切で
はないんだけれども、まあそこはちょっとカンベンしていただきましょう。

◎ もうひとつはネフライト。日本名:軟玉(なんぎょく)。
国ではネフライトのことを古くから玉(ぎょく)と呼び価値のある宝石として扱ってきた。

86_neph1.jpg
硬玉と軟玉。この2種類をあわせて昔はヒスイと呼んでいた。
感覚としては「ヒスイには硬いものと軟らかいものの2種類があります」
という感じだったようだ。
研究が進んだ現代ではこの2つはまったく関連のない別の石だと
いうことがわかっていて、硬玉だけをヒスイと呼ぶことになっている。

にもかかわらず、昔の風習で未だにネフライトもヒスイとして販売されているところが困りもの。
骨董品などを扱っている店で仏像や五重塔あたりに加工されヒスイとして売られている。
ネフライト自体は深い緑のとてもキレイな石だから、
ネフライトだとわかって買う分には何も問題はないと思う。

ここでのポイントは呼び名だよね。
まとめると、
硬玉と軟玉をあわせた広い意味でのヒスイ → ジェード
硬玉 → ジェダイト
軟玉 → ネフライト

というわけで、ひとくちにヒスイといってしまうと、この2種類があるということを
まずは憶えておいてほしいところかな。
もちろん一般的に価値が高く何百万円、何千万円もするのは硬玉(ジェダイト)ですので、
お間違えのないように。
また、このコラムではヒスイというとジェダイトのことをさしますので、
これまたお間違えのないように。


さて、みなさんはヒスイというと真っ先に何を思い浮かべるかな。

勾玉?

そうだね。でも、勾玉はちょっと違うんだよな。
勾玉はあくまでもその形であって、石の種類じゃないんだよね。

とすると、ここはやっぱり色を思い浮かべてもらいたいなと思うんだ。

ヒスイの色というと、たぶん100人いれば100人とも、
その色は緑だと思うんじゃないのかな。

うん、ヒスイというと緑。

これが世間一般の常識となっていることは間違いのないところ。

しかし、私はここで緑を否定しておきましょう。

ヒスイは白なのです。

白いヒスイが90パーセント。
残り10パーセントの中に緑をはじめ青、紫、赤、黄……。と、非常に多くの色があるのです。

そう、非常に多くの色があるというのもミソ。
「ヒスイ七色」という言葉もあって、ヒスイにはすべての色が
そろっているといっても過言ではないと思う。
すべての色があるのだから、当然、黒ヒスイだってあるぞ。
私も黒ヒスイを何個か持っている(最初の写真、上の段の真ん中)。
私の見つけた黒ヒスイはグレーが混じっていてイマイチ黒さに欠けるところがちょっと残念。

そういう他の色もあるということを考えると、緑はヒスイ全体の
1パーセントにも満たないと思うのだ。
よって、「ヒスイの色は緑」というのは正しくなく、
「ヒスイは緑がもっとも価値が高い」ということなら、そのとおりだといえる。

 
つづいて、鉱物としてのヒスイにはどのような特徴があるのか。

まず、ヒスイには結晶がない。

んー、これはちょっと乱暴ないい方だったかな。
でも、当たらずしも遠からず。
ヒスイ(もちろん硬玉ね)はヒスイ輝石という鉱物から出来ているのだけれど、
このヒスイ輝石が目に見えるような大きさの結晶に育たないんだよ。
どんなに大きくても0.5ミリが限界。
その微細な結晶がガッチリと絡まり合ってヒスイという石が出来ている。
だから、ヒスイは水晶のようにひとつの結晶を手のひらに載せるということができず、
ヒスイ輝石でできたヒスイという岩石を手のひらに載せることしかできない。

ちょっとヤヤコシイいい方になってしまったのだけれど、ヒスイとはヒスイ輝石
という微細な結晶の塊だということだな。

そう、だからヒスイには形がない。
水晶のように「あの形でなくなったらもう水晶じゃない」なんていわない。
どんな形になってもヒスイはヒスイなのだ。

そして次になんといっても硬い。
いや、字が違った「堅い」。

同じ「かたい」なのだけれど、その意味合いは大きく違う。
この「堅い」で表すならヒスイはダイヤモンドよりも圧倒的に堅い。

どういうことなのかというと、消しゴムとお煎餅を想像してみて。
消しゴムとお煎餅を両方ハンマーで叩くとどうなるか。
消しゴムはいくら叩いても割れることはないと思う。
一方、お煎餅の方は一発で粉々だよね。
次に爪でキズを付けてみようか。
消しゴムは簡単にキズがついちゃう。しかし、お煎餅の方はそう簡単にキズはつかない。

この場合、消しゴムがヒスイでお煎餅がダイヤモンド。
ダイヤモンドは世界で一番硬い鉱物といわれているけれど、
それはあくまでも「引っ掻きキズのつきにくさ」が世界一であって、
ハンマーなどによる衝撃にはめっぽう弱い。どちらかというと簡単に木っ端みじんになってしまう。

それに対しヒスイは簡単に引っ掻きキズはつくけれど、
ハンマーでバンバン叩いてもほとんど割れない。
たぶん、「堅い」順番ならばダントツで世界一になること間違いなし。

この堅い理由は前述のとおり、微細な結晶がギッチリ絡み合っているから。
それを断ち切って研磨したりカットしたりすることはダイヤモンドカッターを
何枚使っても足りないのだ。
ヒスイは鉱物の中でもっとも加工しにくい石といえる。

そう思うとヒスイで勾玉を作っていた古代の人たちは凄かったんだなと思うな。忍耐強いよ。
私は真似できません。
真似しようとしたカミさんは腱鞘炎になって、病院行きになりました。

それにしても、なんで硬玉なんて名前にしたのかね。堅玉にしておけばわかりやすかったのにねえ。


さて、次は知っておくとちょっとしたヒスイ通になれるという内容。

一番最初にヒスイには硬玉と軟玉があると書いたよね。
大きくこのふたつに分けられるって。
研究が進んだ現代は硬玉と軟玉には何の関連もないということが
わかったわけだけれど、実はさらに研究が進み硬玉も
「実はこれちょっと違うんじゃないの」ということになったのだ。

しかもヒスイの代表である緑が実はヒスイ輝石ではなくオンファス輝石という
別の鉱物だということがわかった。
最初にその話を聞いたとき、「おおー、どうなるヒスイ」と思ったのだけれど、
ヒスイ輝石とオンファス輝石はほんのちょっとしか違わない双子の兄弟のようなものだから、
「どっちも硬玉でいいんじゃね」という感じでたいした問題にもならず
現在は落ち着いていますというお話し。

これを知っていると、次に緑のヒスイを見るとき、
ちょっと違った見方が出来るかもしれないね。


それではお終いに。
ここまでヒスイの話をしたら、やっぱりヒスイ探しに一度は行ってもらいたいと思うんだ。
そこで、どうやったらヒスイが見つかりやすいかということを書いてみます。

86_map2.gif

ヒスイの打ち上がる海岸は地図のとおり。
この範囲ならどの海岸で探してもヒスイを見つけることができる。
ただ日によって潮の流れが違ったり、風の向きが違ったりで見つけられる場所に
偏りが出てしまうこともあるのでご了承ください。

この地図の姫川と青海川の上流に大元のヒスイ産地があるのだけれど、
そこは天然記念物に指定されていて見学は出来るけど持ち帰ることは出来ない。

そして、そこから流れ出たヒスイが姫川や青海川によって海へ流され、
そして海岸に打ち上げられる。
打ち上げられたヒスイは長い年月をかけて波で研磨されているから、それはそれはキレイ。

とりあえず海岸で探すのは白い石だからね。
前述のとおり、ヒスイは90パーセントが白。初めから1パーセントにも
満たないような緑を探していたのでは、永久にヒスイは見つからないと思う。 

さらに真ん丸でないイビツな形をした石が重要。
ヒスイはとにかく堅いからなかなか丸くならない。
最初の写真を見てもらえばわかると思うけれど、どれも丸いとは言い難いよね。
単なる石の場合はホントに真ん丸になっているから、
いくらヒスイっぽく見えても真ん丸の時点でそれはヒスイじゃない。

あとは手触りかな。
ヒスイはやけにツルツルなんだ。
しかし、それはヒスイとただの石を触り比べなければちょっとわかりづらい。
 
白くて、イビツな形をしている石はとりあえずヒスイの可能性があるとして採っておくべき。

ここで重要なこととして、ヒスイかもしれない石は必ず糸魚川市にある
フォッサマグナミュージアムで鑑定してもらうこと。
何個もっていっても専門家が無料で丁寧に、しかも、あっというまに鑑定してくれる。
海岸で「鑑定してあげるよ」と親切に声をかけてくれる人もいるけれど、
私の経験では彼らの鑑定はかなりアバウト。
申し訳ないけれど、ほとんど当てにならないな。

これでまず1個ヒスイを見つけることができれば2個目は意外と簡単に見つかると思う。
そしたら次は白だけじゃなく青とか緑とか紫(ラベンダー)を探してみるといいと思うよ。

86_ke3.jpg86_ke5.jpg


どうかな、味の素のような細かい結晶が見えるかな。
これがヒスイ輝石の結晶。
どんなに大きくても0.5ミリくらい。
この結晶が見えれば確実にその石はヒスイだといえる。

しかし、結晶がさらに緻密になり質が上がると、この結晶が見えなくなるんだよね。
やっぱり、最初はフォッサマグナミュージアムで鑑定してもらうことをお勧めするよ。

おっと、忘れてた。
このあたりの海岸はヒスイだけじゃなく、コランダムも見つかる上に、
日本新産鉱物である糸魚川石(いといがわいし)や奴奈川石(ぬなかわいし)も見つかる。
こちらはどちらも青い石。
さらに以前は宇宙からやって来たと考えられていたコスモクロア輝石もある。
ちょっとでも「ん?」と思った石は必ず鑑定してもらわないといけないよ。


それでは、これからどんどん暖かくなって、海とかへ行くことがとっても楽しい季節です。
海岸でのヒスイ探しもきっと楽しいですよ。
ただし、ひとつだけ注意。
海岸は日陰がありません。あっという間に熱中症になってしまいます。
そこだけは十分に気を付けてくださいね。

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