【第18回】決死のベリル採集

2007.11.15

ベリル という鉱物がある。


名前だけ聞くと「なんだ?」って思うかもしれないけど、本来、無色透明のこの石に色が着くと誰もが知っている宝石になる。

ベリル結晶

この石の日本名は「緑柱石(りょくちゅうせき)」という。
なぜ、無色なのに「緑」なのか。

それはこの石にクロムイオンもしくはバナジウムイオンが入り込み、
緑に発色した瞬間にエメラルドとその名前を変えるからなのだ。

エメラルド

さらに、青くなるとアクアマリン、ピンクになるとモルガナイト、黄色ならへリオドール、無色のままならゴシュナイトと呼ばれる。

アクアマリンモルガナイト

へリオドール

ただし、これらの名前はすべて宝石名で、鉱物としては全部ひっくるめて「ベリル(緑柱石)」とされている。


エメラルド! アクアマリン!

     こんなすごい石が日本にあるのか!

                    そう訊かれれば、答えはひとつ。


             
              ある! 

ベリルは確実に日本にある。

私が知っている産地は5か所。福島県、茨城県、岐阜県、滋賀県そして佐賀県。
この中で茨城県と岐阜県の産地に私たちは行ったことがある。



茨城県真壁町(現桜川市)は私たちが生まれて初めて鉱物採集をした記念の地。

探し方は? 道具は? まったく何も知らない状態で、とりあえず行ってみたという感じだった。


もともとここはアルマンディンガーネットの産地として有名なところ。

私たちもガーネットを採集するつもりだったためベリルの存在はまったく知らなかった。
(ガーネットについては近々あらためて特集したいと思ってます)


県道から荒れ果てた林道に入る。急な上り坂のその突き当たりに数台の車が止まっていた。


道具を取り出し数分(たぶん2~3分)の道のりを歩く。砂防ダムを越えたところの小さな谷が目的の場所。すでに4~5人がスコップをふるっていた。


 このとき私たちが持っていた道具は、100円ショップで買ったフルイとシャベル、そしてバケツだけ。長グツすらはいていなかった。

ところで、鉱物採集はとりあえずでもいいから現場に行ってみることが重要。


このときもどうしていいかわからずに立ちつくしていた私たちに、すでに採集していた人たちが「こうやるんだよ」「こう探すんだよ」っていう感じで、みんなすごく親切にしてくれた。

その中でひとり「一緒に探しましょう」と私たちを誘ってくれた人がいた。
その人に初めて「ベリルも採れる」ということを聞いたのだ。


 しかも、若干ではあるが青みがかっているアクアマリンであるらしい。

ガーネットとアクアマリン。私たちはその両方に興奮し100円のフルイにガシガシ土を入れ水に沈めた。
そして見つけたアクアマリンが下の写真である。

茨城アクアマリン

ほとんど青がわからないけど、現物はちょーーぉっとだけ青みがかっている。

なんとなくでも青味がかっていたらアクアマリンと呼びたいのさ!



1年半後、スバラシイ秋晴れの雲ひとつないポカポカ陽気の日。
採集にもだいぶん慣れてきた私たちは新たに岐阜県福岡町(現中津川市)にある産地を訪れた。


この産地は国道のすぐそば。荒れ果てた林道もなければ急な斜面もない。私たちの中でベスト3に入る楽な産地だ。


車を停め森のなかを進む。進むといってもベリルのあるその場所までしっかり道がついている。藪をかき分ける必要もなく、私たちはほんの数分でポイントにたどり着いた。


そこはじっくり探せば必ず大きな結晶が見つかる気配があった。

 そしてたぶん本当に見つかっていただろう。

 
ん? 「~だろう」ってなに? って思ったかな。


というのは、実は私たちはそこでベリルを探すことができなかったのだ。
 見つけることができなかったのではなく、探すことができなかったのだ。



なぜなら、そこには森の守り神がいたから。



 …… 蚊 だった。


おびただしい数の蚊が私たちを取り囲んだ。
息をすると鼻の穴に蚊が飛び込んでくる。

プーンという音が耳元で……どころではなく、耳のなかでゴソゴソ、ひーっ!


とにかく逃げなければ。


取るものもとりあえず、私たちは森から走り出た。


たぶん10分もいたら確実に全身の血が吸いつくされていただろう。

車のところにまで戻った私たちはお互いに服や髪の毛をパタパタし、蚊がいないことを確認してようやく安心した。



しかし、私たちの顔はまるで夏みかんのようにデコボコになっていた。

そういうわけで、まったく採集できる状態ではなかったのだが、なんと驚いたことにカミさんが右手に石を握りしめていた。

ぜんぜん余裕のなかった私に対し、カミさんは逃げ出すそのとき足下にあった石を2~3個つかんでいたのだ。
そしてその石にはしっかりベリルがついていた。


それがこれだ! 
 
岐阜アクアマリン

ごちゃっとついているのは全部ベリル。

やはり写真ではわからないが確実に青い。これも立派なアクアマリンだ。
1本1本はシャーペンの芯ほどに細いけれど、私たちにとってこれほど貴重なベリルはない。
この日、私たちはまたひとつ山の恐ろしさを知ったのだった。


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 おまけ。

レッドベリル

これは、宝石店でレッドエメラルドとして売られている石。
宝石店以外ではまぎらわしいということでレッドベリルと呼ばれている。


このレッドベリル、世界で1か所アメリカのユタ州でのみ産出している希少品。しかも枯渇寸前らしい。もしかしたらすでに絶産しているかも。


 もし、見つけることができたらラッキー。


小さなものなら5000円くらいから手にはいると思う。


そうそう、エメラルドってまだ日本では見つかっていないことになっているんだけど、私は産地で緑のベリルを見たことがあるぞ。

もしかしたら、専門家に知られていないだけで、エメラルドはすでに発見されているのかもしれないな。

 

 

プロフィール

妻・くみ子の趣味に無理矢理つき合わされた形で始めた宝探しにハマッてしまい、その紀行文を小学館のアウトドア雑誌BE-PALに連載。素人でも採取可能な天然石の採集紀行や石の選び方・魅力やそれにまつわる幅広い知識を生かし活動の幅を広げている。

著書の紹介

宝石・鉱物おもしろガイド
消費者の立場から見た初の本。鑑賞から採集までわかりやすく解説。これ一冊あれば宝石のすべてがわかる!!鉱物採集のための産地の情報付き。
(税込み1,680円)
週末は「婦唱夫随」の宝探し
小学館のアウトドア雑誌「BE-PAL」に14回にわたって連載していたものの単行本化。宝石はブラジルやスリランカなど、一部の国からだけ産出するわけではなかった。日本産の宝石を求め、軽自動車で全国を旅する。「宝石大好き」というだけの単なる主婦が、ダンナを引っ張り回し宝石を探し当てていく。
(税込み1,680円)
アナヒータ各店で発売中
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